相続税の納付期限は10ヶ月。期限内に現金で一括納付するのが原則ですが、相続財産の大半が不動産だったり、想定以上の税額が出たりすると、現金一括が難しいケースは少なくありません。そこで使えるのが「延納」と「物納」という国の救済制度です。ただし、それぞれに利用条件・担保要件・許可までの期間があり、申請のタイミングを誤ると期限内納付に間に合わないリスクがあります。
本記事では、延納・物納の実務的な使い分けと申請手順を整理し、申請から許可までの「空白期間」を質屋で繋ぐ組み合わせ術まで、相続税の資金繰りを現実的な手順で解説します。
本記事は質屋ガイド編集部が、相続税法・国税庁の公開情報および質屋営業法に基づき作成しています。具体的な税額計算・延納物納の可否判定は税理士・税務署にご確認ください。
相続税が払えないと何が起きるのか
期限後納付には延滞税と加算税が二重で課される
相続税の納付期限を1日でも過ぎると、自動的に延滞税が発生します。さらに申告期限を過ぎていれば無申告加算税、過少申告であれば過少申告加算税も加わります。
| 種類 | 税率(2026年時点) |
|---|---|
| 延滞税(2ヶ月以内) | 年2.4% |
| 延滞税(2ヶ月超) | 年8.7% |
| 無申告加算税 | 最大20% |
| 過少申告加算税 | 最大15% |
たとえば納付額1,000万円を3ヶ月遅延した場合、延滞税だけで約14万円。延納の利子税(年1.6%程度)と比べて10倍近い負担になります。遅れる前に延納申請をする方が圧倒的に安く済む という構造です。
延納・物納の存在を知らずに高利借入する人が多い
実務でよく見るのは、相続税が払えないことに気づいた相続人がカードローンや消費者金融に走るパターンです。年14〜18%の金利で数百万円借りると、利息だけで延納の数倍に達します。
国は相続税法第38条・第41条で、現金納付が困難な相続人を救済する制度を用意しています。まずこの制度の利用可否を検討してから、民間の借入に進むのが正しい順序です。
延納制度の仕組みと利用条件
延納とは——分割払いで納める制度
延納は相続税法第38条に基づく制度で、金銭による一括納付が困難な場合に、最長20年の分割払いを認めるものです。
- 申請: 納付期限(10ヶ月)までに延納申請書と担保提供書類を提出
- 期間: 原則5年。相続財産に占める不動産等の割合により最長20年
- 利子税: 年1.6〜6.0%(不動産等の割合・特例基準割合により変動)
- 担保: 国債・地方債・社債・土地・建物・有価証券等
延納が認められる4つの要件
延納申請が認められるには、以下の4要件を全て満たす必要があります。
- 相続税額が10万円超 であること
- 金銭納付が困難 な事由があること(金銭納付困難事由)
- 担保を提供 できること(延納税額100万円以下かつ期間3年以下なら不要)
- 申請書を期限内に提出 すること
「金銭納付が困難」とは、相続人の手元現金・換金容易な財産を相続財産・固有財産から差し引いた残額で納付できない状態を指します。手元預金が潤沢にある場合は認められません。
利子税の計算——不動産割合で大きく変わる
延納の利子税率は、相続財産に占める不動産等の割合により大きく変動します。
| 不動産等の割合 | 延納期間 | 利子税率(特例基準割合適用後) |
|---|---|---|
| 75%以上 | 最長20年 | 年1.2〜1.6%(不動産等部分) |
| 50%以上75%未満 | 最長15年 | 年1.6〜2.0% |
| 50%未満 | 最長5年 | 年3.6〜6.0% |
不動産等の割合が高いほど、長期分割と低利子税の両方が認められる 仕組みです。実務上、地方の地主の相続では75%以上のケースが多く、年1.2%程度で20年分割が組めることがあります。
担保として認められる財産
延納の担保は質的に厳しい審査があります。
- 国債・地方債 — 額面どおり評価
- 社債・株式(上場) — 評価額の80%程度
- 土地 — 路線価または固定資産税評価額の80%程度
- 建物・立木 — 火災保険付保が条件
- 保証人 — 一定の資力がある第三者
担保の価値は 延納税額+3年分の利子税 をカバーする必要があります。既存の抵当権が設定されている不動産は、超過部分しか担保にできません。
物納制度の仕組みと許可までの実務
物納とは——物で納める最終手段
物納は相続税法第41条に基づき、金銭納付が困難で延納によっても納付困難な場合に、物(不動産・有価証券等)で相続税を納める制度です。
- 申請: 納付期限(10ヶ月)までに物納申請書を提出
- 許可まで: 6ヶ月〜数年(複雑な不動産は3年以上のケースも)
- 利子税: 申請後の納付完了までは課税されない(ただし審査期間が長すぎる場合は別途利子税)
- 評価: 相続税評価額で収納
物納可能財産の優先順位
物納できる財産には法定の優先順位があります。
| 順位 | 財産の種類 |
|---|---|
| 第1順位 | 不動産・船舶・国債・地方債・上場株式等 |
| 第2順位 | 非上場株式等 |
| 第3順位 | 動産(宝飾品・絵画・骨董品等) |
上位の財産がある場合、下位の財産での物納は原則認められません。つまり相続不動産がある相続人が、形見の宝飾品を物納することは不可能です。
物納に適さない財産(管理処分不適格財産)
以下のような財産は物納できません。
- 抵当権・質権が設定されている不動産
- 境界が確定していない土地
- 共有財産(持分のみの物納は不可)
- 訴訟中の財産
- 違法建築物
- 維持管理に多額の費用がかかる財産
実務では、相続不動産の多くがこれらに該当して物納不適格となります。事前に税務署と協議が必要です。

延納と物納の比較表
| 項目 | 延納 | 物納 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 相続税法第38条 | 相続税法第41条 |
| 利用条件 | 金銭納付困難 | 延納でも困難 |
| 期間 | 5〜20年分割 | 一括(物で) |
| 利子税 | 年1.2〜6.0% | 申請後は原則なし |
| 申請期限 | 納付期限内(10ヶ月) | 納付期限内(10ヶ月) |
| 許可まで | 1〜2ヶ月 | 6ヶ月〜数年 |
| 担保 | 必要(一部例外) | 不要(物が担保) |
| 撤回 | 申請後の延納→金銭納付への切替可 | 物納→延納への切替(特定物納)可 |
「延納でダメなら物納」という順序はあくまで建前で、物納審査が長期化するため実務では延納+繋ぎ資金の方が現実的 というケースが多くなります。
申請手続きの実務フロー

延納申請の流れ
延納申請は納付期限までに以下のステップで進めます。
- 相続税の概算把握(相続発生から3ヶ月以内)
- 金銭納付困難事由の確認(相続人の固有財産・手元現金の精査)
- 担保財産の選定(4ヶ月目)
- 延納申請書・金銭納付困難事由説明書の作成(6〜8ヶ月目)
- 担保提供関係書類の準備(登記簿・評価証明・抵当権抹消等、6〜9ヶ月目)
- 延納申請書の提出(9〜10ヶ月目、納付期限まで)
- 税務署の審査(提出後1〜2ヶ月)
- 延納許可通知(提出後2〜3ヶ月)
- 分割払い開始(許可月の翌月から)
担保提供書類の準備が最も時間がかかる工程 です。土地の境界未確定や抵当権抹消が必要な場合、6ヶ月以上前から動き始める必要があります。
物納申請の流れ
物納申請はさらに長期戦になります。
- 物納可能財産の選定(4〜6ヶ月目)
- 管理処分不適格事由の解消(境界確定・抵当権抹消、6〜10ヶ月目)
- 物納申請書・物納財産目録の作成(9〜10ヶ月目)
- 物納申請書の提出(納付期限まで)
- 税務署の現地調査(提出後1〜3ヶ月)
- 追加書類提出・補正(提出後3〜6ヶ月)
- 物納許可通知(提出後6ヶ月〜3年)
- 物納財産の収納(許可後)
物納財産の収納まで、申請から平均1年半かかります。
提出書類のチェックリスト
| 書類 | 延納 | 物納 |
|---|---|---|
| 申請書本体 | ○ | ○ |
| 金銭納付困難事由説明書 | ○ | ○ |
| 延納でも納付困難な事由説明書 | × | ○ |
| 担保提供書類(登記簿・評価証明) | ○ | × |
| 物納財産目録 | × | ○ |
| 物納手続関係書類 | × | ○ |
| 相続税申告書(写し) | ○ | ○ |
| 戸籍謄本(被相続人・相続人) | ○ | ○ |
書類不備は審査の長期化に直結するため、税理士に依頼するのが一般的です。
ケーススタディ——延納・物納と質屋の組み合わせ
ケース1: 延納申請中の繋ぎ資金(不足額200万円)
50代会社員、父の相続で相続税1,200万円が確定。延納申請を準備中だが、許可までの2ヶ月間に納付期限が到来。手元預金で1,000万円は工面、残り200万円が必要。
選択肢の比較
| 手段 | 利息・コスト | 評価 |
|---|---|---|
| 延納が間に合えば年1.6%で5年分割 | 200万円×年1.6%×5年=約16万円 | ◎(許可後) |
| カードローン | 200万円×年15%×2ヶ月=約5万円、信用情報登録 | △ |
| 質屋(質草: 父のロレックス、査定額300万円) | 200万円×月利1.5%×2ヶ月=6万円 | ○ |
推奨: 質屋で2ヶ月繋ぎ、延納許可後に分割払いに合流する組み合わせ。信用情報を汚さず、形見も期限内に取り戻せる 。延納許可が下りた時点で200万円を質屋に返済し、ロレックスを受け戻す。
ケース2: 物納審査中の繋ぎ資金(不足額500万円)
60代退職者、母の相続で相続税3,000万円。相続不動産で物納申請したが、許可まで1年以上かかる見込み。利子税はかからないが、物納財産の維持費用や生活費で500万円の現金が必要。
選択肢の比較
| 手段 | 利息・コスト | 評価 |
|---|---|---|
| 銀行融資(不動産担保) | 物納予定不動産は担保不可 | × |
| カードローン | 500万円×年15%×12ヶ月=75万円 | × |
| 質屋(質草: 母の真珠ネックレス+ダイヤ、査定額800万円) | 500万円×月利1%×12ヶ月=60万円 | ○ |
| 親族借入 | 利子税程度の利息設定が必要 | △ |
推奨: 質屋。物納予定の不動産は他の融資の担保にできない ため、動産担保の質屋が現実的な選択肢になる。物納許可後は税負担が消滅するため、その後の家計から計画的に返済できる。
ケース3: 延納が認められず緊急対応(不足額800万円)
40代自営業、父の相続で相続税2,000万円。手元預金で1,200万円は確保したが、延納申請したものの担保不足で却下。納付期限まで残り3週間で800万円が必要。
選択肢の比較
| 手段 | 利息・コスト | 評価 |
|---|---|---|
| 銀行融資 | 審査3〜4週間で間に合わない | × |
| 延滞 | 延滞税年2.4%×3ヶ月=約5万円+無申告加算税最大20% | × |
| 質屋(質草: 父の高級時計コレクション、査定額1,200万円) | 800万円×月利0.95%×3ヶ月=約23万円 | ◎ |
| 相続不動産の急ぎ売却 | 急ぎ売却で市場価格の70%以下 | × |
推奨: 質屋+3ヶ月以内に相続不動産売却。延滞税回避が最優先で、即日資金化できる質屋が唯一の選択肢。3ヶ月後に不動産売却金で一括返済し、時計コレクションを受け戻す計画。
質屋を組み合わせる際の注意点
注意1: 流質期限と返済原資の整合性
質屋の流質期限は原則3ヶ月(質屋営業法第19条)。延納許可までの期間が3ヶ月を超える見込みなら、利息のみ支払って期限を延長できる店舗を選ぶ必要があります。
- 高額融資を扱う質屋は 利息のみ支払いで期限延長 に対応している店舗が多い
- 事前に最長何ヶ月まで延長可能か確認
- 返済原資(延納分割払い・不動産売却金等)の入金時期を質入れ前に確定
注意2: 物納予定財産は質入れしない
物納申請中の不動産・有価証券を質入れまたは担保提供すると、物納審査で却下される可能性があります。物納予定財産には抵当権・質権を設定してはいけません 。物納に出さない動産(時計・宝飾品・骨董品)を質草にしてください。
注意3: 査定額は市場価値の50〜70%
質屋の借入可能額は品物の市場価値の50〜70%が目安です。
- ロレックス(市場価値500万円)→ 借入可能額250〜350万円
- ダイヤモンドリング(市場価値100万円)→ 借入可能額50〜70万円
- 金インゴット100g(市場価値130万円)→ 借入可能額100〜120万円
必要額より大きい価値の品物を用意してください。
注意4: 高額融資の店舗選び
500万円以上の融資に対応する質屋は限られます。事前に電話で以下を確認してください。
- 高額融資の対応可否
- 担保となる品物の取扱経験
- 期限延長の柔軟性
- 個室対応・出張査定の有無
詳しい質屋利用の流れは 質屋が初めての人向け完全ガイド を参照してください。
延納物納以外の選択肢との比較
相続税の繋ぎ資金として、延納・物納・質屋以外にも複数の選択肢があります。網羅的な比較は 相続税納付までの繋ぎ資金調達 を参照してください。
形見の現金化方法全般については 相続した形見を現金化する方法 を、売却と質入れの税務比較は 相続品は売却と質入れどちらが得?税務観点での徹底比較 を参照してください。
全国の質屋を探す
相続品の質入れを検討する場合、お住まいの地域の質屋を エリアから探す ことができます。高額融資・期限延長・出張査定に対応している店舗を選ぶのが安全です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 延納申請は誰でも通りますか?
A. 4要件(税額10万円超・金銭納付困難・担保提供・期限内申請)を全て満たせば原則認められます。ただし担保不足や金銭納付困難事由の説明が不十分な場合は却下されることがあります。担保準備に時間がかかるため、相続発生から6ヶ月以内に税理士相談を推奨します。
Q2. 延納の利子税と銀行融資、どちらが安いですか?
A. 不動産等の割合と期間によります。不動産等75%以上で年1.2〜1.6%なら銀行融資より安いケースが多く、20年分割も可能です。不動産等50%未満で5年分割なら年3.6〜6.0%となり、銀行融資(年1.5〜3.0%)の方が安くなることがあります。
Q3. 物納申請中に税金は増えますか?
A. 物納申請から許可までの期間中は、原則として利子税・延滞税は課されません。ただし物納財産の評価額が不足した場合や審査が著しく長期化した場合は、別途利子税が加算されることがあります。
Q4. 延納から物納への切替はできますか?
A. できます。これを「特定物納」といい、延納許可後に分割払いが困難になった場合、申告期限から10年以内に物納に切り替えられます。ただし要件審査があります。
Q5. 物納財産は相続税評価額のまま収納されますか?
A. 原則として相続税評価額(路線価等)で収納されます。土地の場合は路線価ベースで、市場価格の70〜80%程度になることが多く、物納で損をするケースが出てきます。換金可能な不動産であれば、売却して現金納付する方が手元に残る場合もあります。
Q6. 延納申請中に質屋で借りても問題ありませんか?
A. 問題ありません。質屋の借入は信用情報に登録されず、税務署の審査にも影響しません。ただし質草を延納の担保に提供する予定なら、質入れと担保提供は両立しません。
Q7. 延納の担保がない場合はどうすればよいですか?
A. 延納税額100万円以下かつ期間3年以下なら担保不要です。それ以外は (1) 親族からの保証人提供、(2) 相続財産以外の固有財産の担保提供、(3) 物納申請への切替、を検討します。担保なしで延納が認められないケースが、質屋を使う典型例です。
Q8. 物納できる動産はありますか?
A. 物納の優先順位では動産は第3順位で、不動産等の上位財産がある場合は原則認められません。骨董品・絵画等は美術品として例外的に物納可能なケースもありますが、評価が難しく実務では稀です。形見の宝飾品・時計等を物納するのは現実的でないため、質入れまたは売却が現実解になります。
Q9. 延納の利子税は経費になりますか?
A. 個人の相続税の利子税は所得税の必要経費にはなりません。事業承継で取得した事業用資産に対応する部分は、事業所得の必要経費に算入できる場合があります。詳細は税理士にご確認ください。
Q10. 質屋の利用は信用情報に影響しますか?
A. 影響しません。質屋は質屋営業法の管轄で貸金業法の対象外のため、CIC・JICC・KSCの信用情報機関には一切登録されません。相続後の住宅ローン・事業融資にも影響しません。
Q11. 延納が却下された場合、納付期限はどうなりますか?
A. 延納が却下されても、当初の納付期限は延長されません。却下通知後すぐに金銭納付するか、延滞税を覚悟で期限後納付することになります。却下リスクを見込んで、申請と並行して質屋・銀行融資の準備を進めるのが実務的 です。
まとめ:延納・物納と質屋を組み合わせて納付期限を守る
相続税の納付が現金で困難な場合、以下の優先順位で手段を組み合わせるのが現実的です。
- 延納申請 を最優先で検討(担保があれば年1.2〜1.6%で20年分割も可能)
- 物納申請 は不動産中心の相続で延納でも困難な場合の最終手段
- 質屋 で申請から許可までの空白期間を繋ぐ(即日・形見を残せる)
- 銀行融資 は不動産担保があり中期繋ぎなら有力
- カードローン・延滞 は最後の手段(コスト最大)
延納・物納の手続きは長期戦で、申請から許可まで数ヶ月〜数年の空白期間が生じます。この空白期間を質屋で繋ぐ組み合わせが、信用情報を汚さず形見も守りつつ期限を遵守する現実解 です。
形見の宝飾品・時計・骨董品を売却せずに納税資金を確保したい方は、エリアから質屋を探す ことから始めてみてください。高額融資と期限延長に対応した店舗が、相続税の繋ぎ資金として実務で活用されています。
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参考文献・出典
- 相続税法第38条(延納)・第41条(物納)(e-Gov法令検索)
- 国税庁「No.4211 相続税の延納」
- 国税庁「No.4214 相続税の物納」
- 国税庁「相続税・贈与税の延納の手引」
- 質屋営業法(e-Gov法令検索)
最終更新日: 2026年5月1日



